2015年5月10日日曜日

政府目標案「温室効果ガス排出量を2030年に13年比で26%削減」の発表を受けて-問われる日本の温暖化防止への姿勢



日本政府では先月4月、地球温暖化対策に向けた今後の温室効果ガス排出削減目標を巡って、議論が大詰めを迎えていました。そして430日、政府がまとめた削減目標案が国の審議会で提示されました。

それが「温室効果ガス排出量を2030年までに13年比で26%削減」です。

26%削減」と聞くとそれなりに大きな数字のように感じられますが、今回の発表を受けて、すでにいくつかの環境系NPOは目標値の低さを指摘し、改めるよう政府に強く訴えています。また428日には、この削減目標と表裏一体の2030年に向けたエネルギー基本計画が発表されており、こちらも排出削減目標と同様に物議をかもしています。

日本政府が発表した目標案を客観的に分析するには、他国との比較や、ここ数年の日本のエネルギー事情の理解が鍵になります。そこで、今日はこれまで出されている提言等を参考にしながら、背景事情を整理し、今回の目標案が抱える問題点を浮き彫りにしたいと思います。


◇なぜ今、温室効果ガス排出削減目標なのか

まず分析に入る前に、なぜこのタイミングで2030年に向けた日本の温室効果ガス排出削減目標が議論されているのでしょうか?

答えは、年末にパリで開かれるCOP21(国連気候変動枠組み条約21回締約国会議)に向けて、温室効果ガス排出削減目標を盛り込んだINDCIntended Nationally Determined Contributions: 各国が自主的に決定する約束草案)を表明することが締約国に求められているからです。
INDCについて詳しくは331日付記事「日本のINDC提出へ高まる期待

年末のCOP21は、2020年以降の気候変動対策の国際的枠組みにおける合意を目指す、非常に重要な会議です。これに合わせて各国は、事前に国連にINDCを提出することになっており、51日時点でEUや米国を含む37か国が削減目標を提出しています。世界第5位(2012年時点)の温室効果ガス排出国である日本のINDCは、国際交渉に大きな影響をあたえるものであり、かつ世界の気候変動対策における日本の姿勢が問われる重要な指標だといえるでしょう。

このような背景のなかで日本政府によって発表されたのが「温室効果ガス排出量を2030年までに13年比で26%削減」という目標案ですが、実はこの表現には大きな問題が隠されています。それが基準年ずらしです。


◇「13年比」が意味すること

日本政府の削減目標は、2013年比を中心としながらも05年比を併記して「2030年度に2013年度比マイナス26.0%(2005年度比25.4%)の水準にする」という表現をしています。

実は、他国の削減目標を見てみると、先進国の多くでは基準年は1990年となっています(米国は2005年)。EU2030年に90年比で40%以上削減、米国は2025年に05年比26~28%削減という削減目標を提出済みです。一方、日本政府が今回発表した2013年との比較、しかも基準年を2つ併記して登録する意向というは異例のようです。

なぜ日本政府が2013年をメインの基準年としているかといえば、それは国際的に遜色ない目標(数字)を示すためです。これは大手新聞の記事等でもはっきりと書かれています。2005年を基準年とすると、EU2030年に35%削減、米国は2025年に26~28%削減となり、日本の25.4%はわずかに見劣りしてしまいます。更に1990年比であれば、EUの大胆な40%削減という目標に対して、日本はたったの18%削減となります(米国は2025年に90年比14~16%削減)。
 

出典:NPO法人気候ネットワークHP 51日付記事


しかし、原発停止によって火力発電比率が増え、近年のうちで最大の温室効果ガス排出量を記録した2013年を基準にすれば、EU24%削減、米国は18~21%削減となり、欧米に比べて日本の削減率26%を大きく見せることができます。これは1990年以降、2009年前後を除いて結局排出量を削減できていない日本の過去を隠しているようなものです(下のグラフを見るとよく分かります)。





出典:全国地球温暖化防止推進センターHP内「すぐ使える図表集」


そもそも温室効果ガス排出量が格段に多く、削減する余地が大きい米国と日本の目標値を比較して評価するのは難しいですが、1990年から着実に排出量を減らしているEUを考えれば、日本にも排出量削減の余地は十分あり、どれだけ努力するかは国の政策や私たちの取り組み次第といえるでしょう。


◇明らかに不十分な目標値

以上の分析から言えることは、今回日本政府が提示した削減目標案は見せかけの数字が大きいだけで、地球温暖化防止への意欲的な目標値とは到底言い難いものであるということです。こうした消極的な姿勢では、国際社会および交渉の場での日本の信用やプレゼンスが失墜することは容易に想像され、更には年末のCOP21での合意形成に悪影響を与えかねません。また、日本も合意している「先進国で2050年に1990年比80%削減」という国際目標の達成への懸念をも大きくするものです。そして何より、今後15年間の目標を低く掲げるということは、その後引き続き日本に求められる削減努力が相対的に重くなり、将来世代へ大きな負担を課すことになります。

今回の政府目標案の発表を受けて、気候変動に取り組むNGOネットワークであるCAN-Japan430日付の提言で、「1990年比で40%以上削減」を目標として掲げることを求めています。これはEUが提出している削減目標と肩を並べるもので、日本も同じ先進国として掲げうる目標であり、温暖化防止に積極的に取り組む姿勢を示すにふさわしい値といえるのではないでしょうか。

NPO法人気候ネットワークによれば、正式な温室効果ガス排出削減目標を盛り込んだINDCの提出は、今後政府が原案をまとめ、パブリックコメントを実施し、地球温暖化対策推進本部で決定したうえで行われるようです。これらについての詳細はまだ発表されていませんが、CYJでも今後の動向を注意深く追いかけていくつもりです。


◇同時に問われる今後のエネルギー計画(別稿に続く)

ここまで温室効果ガス排出削減目標の話をしてきましたが、その実行のための指針ともいえるのがエネルギー計画です。削減目標について考えるのであれば、当然ですが、施策面も並行して考える必要があります。目標値の低さを批判することは簡単ですが、では実際どうしたら高い目標値を実現できるのか。その方法についても少し考えてみたいと思います。

今回の排出削減目標提示の2日前の先月末28日には、2030年のエネルギーミックス(電源構成比率)の案が示されました。その内容について注目すべきと思われる点は以下の2点です。

2030年の電力需要の見通しは9810kWh2013年の9670kWhから増加予想。
・発電源の割合は原子力20~22%、再生可能エネルギー22~24%、石炭26%、天然ガス27%、石油3%

下のグラフは、2013年と2030年のエネルギーミックスを比較しやすくしたものです。



出典:NPO法人気候ネットワークHP 51日付記事

これらの情報から何が読み取れるでしょうか。

このエネルギー基本計画は、今後日本が電力を安定的に供給しながら温室効果ガス排出量を削減していくために、ふさわしいといえるものでしょうか。
またもし、あなたがこの計画に不満あるいは不安を覚えるのであれば、何をどう変えるべきだと考えますか。

続きは次回の投稿にしたいと思います。皆さんもぜひこの機会に、日本の将来の形、そして私たちの日々の生活に直接つながっているエネルギー計画について、じっくり考えてみましょう

(文責:西田)



参考資料~

CAN-Japan 『【安倍総理への書簡】日本の新しい温暖化対策の目標案について』(2015430日付)
CAN-Japan 2020年以降の温暖化対策の国別目標案(約束草案)の提出状況・一覧』
NPO法人気候ネットワーク 『あなたも政府に意見を出そう!問題だらけの「エネルギーミックス」と「温室効果ガス削減目標」』(201551日付)
全国地球温暖化防止推進センター 『すぐ使える図表集4-1 日本における温室効果ガス排出量の推移(1990-2013年度)』
日本経済新聞電子版 『温暖化ガス削減目標、欧米にらみ最後に上積み 政府26%目標』(201551日付)





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