2015年5月16日土曜日

政府目標案に隠された落とし穴——今こそ温暖化対策に向けた国民的議論


■ COP21に向け、政府が削減目標案を発表

 政府は先月末、国全体で取り組む温室効果ガスの削減目標について、新たな指針を公表しました。日本の排出量を2030年までに、13年比で26%削減、05年比では25.4%削減するとしています。原子力発電所の稼働や再生可能エネルギーの普及を中心に削減量を推計したようで、15年間で現在の排出量の4分の1を削減するという目標になっています。

 そもそもこの目標値は、11月末から開かれる国連の気候変動パリ会議(COP21)にて、世界規模の中期的な削減目標を決めるために各国が素案として提示するものです。すでに、EU2030年までに90年比40%減(05年比35%減)、米国は2025年までに05年比2628%減という目標を策定し提示しています。



土壇場で目標値かさ上げ、しかし問題は山積み

 日本の目標値設定の背景には、数値をこれら諸外国の目標値と遜色ないものにしたいという思惑があります。政府は当初、目標値を13年度比20%減と定める方向で調整していましたが、COP216月のサミットなどをにらみ、国際社会で批判を招かないよう数値を上乗せする方向で検討が進んだようです。削減量が上乗せされたことは好ましいことのように思われるかもしれませんが、ここには看過できない2つの落とし穴が隠されています。


それでも目標値が低すぎる

 この数値については「目標値として低すぎる」との見解が数多く出ています。気候変動に取り組むNGOのネットワーク・CAN-Japanは、「世界規模で必要とされている削減値を満たし」「他国との配分において衡平で」「日本の削減余地に見合った」削減割合を分析し、「2030年までに90年比40%50%の削減」が必要との結論を得ていますが、言うまでもなく今回の目標値はこの値には大幅に届いていません。

 また、12年には「2050年までに80%削減」という項目を盛り込んだ「第四次環境基本計画」が閣議決定されましたが、この政府自身の目標値からも後退していることになります(削減が直線的に行われると考えれば、2030年までに約35%の削減が必要)。



目標値設定のための議論が少ない

 しかし一番懸念すべきは、目標設定に際し、根拠となる部分について建設的な議論があまりなされなかった点でしょう。

 平行して議論されていた2030年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)は、再生可能エネルギーを2224%、原子力を2022%と示す案に決着しました。
(ベストミックスについて、詳しくは510日記事を参照)

 この配分に関しては、再生可能エネルギーの発展可能性を過小評価しているのでは、との批判ととともに、当然ながら原子力への依存度が高い点が問題視されています。2030年に原子力の割合を2割以上とするためには、40年が原則となっている原発の運転期間を60年に延長するか、原発の新増設しかありません。もちろん、今の世論が再稼働を簡単に容認するとは思えませんが、かといって再稼働ができないとなれば、電源を石油火力に頼らざるを得ず、温室効果ガスの削減が遅れてしまいます。

 いずれにせよ、今回の削減目標設定については、議論が拙速に行われた一方で、重大な問題がおざなりになってしまった印象を受けます。




今こそ議論と行動を!

 政府は2005年から「パブリックコメント制度(意見公募手続制度)」を導入しています。これは省令や法令を決める際に用いられる制度で、政府はこれらの命令等を定める際、原則として、あらかじめその案を公表した上で、国民から広く意見や情報を収集し、それらを十分に考慮しなければなりません(行政手続法第6章 第38条~第45条)。これは、私たちが問題意識を持ってきちんと意見を届ければ、国の方針を変えることだってできることを意味します。

 現在、資源エネルギー庁HP上には「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に関する意見箱」が設けられています。また温室効果ガスの排出削減目標についても今後、政府がパブリックコメントを実施するようです(詳細は未発表)。
 
 今こそ、私たち若者を中心とした、国民的な議論が強く求められています。
 上記パブリックコメントについては、詳細が発表され次第、本ブログ上でお知らせします。
 皆さんも一緒に、温暖化対策のあるべき姿について考えてみませんか。そしてぜひ、私たちの声を政府に届けて、よりよい日本の未来を作っていきましょう。




(文責:針谷)




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 CYJは創設以来,基幹事業のひとつとして「省庁への声明文提出」に力を入れてきました。
(過去の活動実績)
COP や気候サミット開催に合わせ,外務省,経産省,環境省に直接赴き提出
・提出の際に意見交換を実施
・若者向けのイベントを開催し、パブリックコメントを収集した上で提出

 今年度も、COPに向けて活動していきます。団体についての詳細に興味がある方は、HPFacebookページも合わせてご覧ください。




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<参考文献>
NPO法人気候ネットワーク 『あなたも政府に意見を出そう!問題だらけの「エネルギーミックス」と「温室効果ガス削減目標」』(201551日付)
日本経済新聞電子版 『電源構成、決め方に疑問 再生エネ増やす余地も』(2015420日付)
日本経済新聞電子版 『温暖化ガス、2030年までに26%減 政府が目標案』(2015430日付)
日本経済新聞電子版 『温暖化ガス削減目標、欧米にらみ最後に上積み 政府26%目標』(201551日付)
経済産業省 資源エネルギー庁HP 『長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に関する意見箱
ソーシャルイノベーションマガジン「オルタナ」HP 『環境NGOが温暖化目標を批判、「90年比1割減はありえない」』
北海道新聞HP 社説 将来の電源構成 民意を無視した原発回帰』(2015430日付)
WWF Japan HP 『憂慮すべき日本の温室効果ガス排出量削減目標
産経ニュース 『温室ガス26%減 高すぎる目標を危惧する』
e-Gov 『パブリックコメント制度(意見公募手続制度)について』
e-Gov 法令データ提供システム 『行政手続法』



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