2015年5月25日月曜日

政府の提出したエネルギーミックス案に基づいた電気料金の変化


アメリカの海洋大気局(NOAA)は5月6日、世界40箇所の観測結果に基づき世界の大気中のCO濃度今年の3月に観測史上初めて400ppmを越えた400.83ppmであったことを発表しました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は地球温暖化の被害を回避するために抑えるべきCO濃度が450ppmと発表しています。IPCCの発表した数値と比較すると、現在のCO濃度は、大変危険な領域の数値に達していることは明らかです。
もはや一刻の猶予も残されていない中、今年の年末にパリで開かれるCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で取り扱われる、温室効果ガス排出削減目標を盛り込んだINDC(Intended Nationally Determined Contributions: 各国が自主的に決定する約束草案)は、今後の気候変動の世界的な取り組みの要となることで注目が集まっています。
前回の投稿でも取り上げたとおり、日本政府は先月30日に日本のINDC案を発表しました。そして、そのINDCに盛り込まれた目標、「2030年度に2013年度比マイナス26.0%(2005年度比25.4%)の水準にする」を達成するための施策として政府は長期エネルギー需給見通し骨子(案)も先月28日に発表しています。
その目標年である2030年におけるエネルギーミックス案は、図1のようになっています。震災前10年間平均と比べて、2030年度の電源構成で、再生可能エネルギー(再エネ)の増加、原子力と石油による発電の減少を見込んでいることがわかります。
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図1 2030年度の電源構成・発電電力量案
出典:資源エネルギー庁 長期エネルギー需給見通し骨子(案)関連資料 
では、政府はどのような点を考慮してこの案にまとめたのでしょうか?
エネルギーミックスを策定するにあたっての基本方針に「3E+S」というものがあります。これは、2014年4月に発表されたエネルギー基本計画の中に含まれているものであり、3つのE「安定供給/ Energy Security」、「経済効率性/ Economic Efficiency」、「環境適合/ Environment」、1つのS「安全性/ Safety」の4つを基本的な視点として、エネルギーを考えるという政府の姿勢を表した言葉です。
3E+Sを基本的な視点として、原発の安全性の確保を第一考慮としたうえで、政府は3つの目標を上げています。
  • エネルギー自給率を概ね25%にする
  • 電力コストを現状より上げずに、抑制していく
  • 環境適合に関して、世界をリードする
今回この記事では、普段の私たちの生活との関係が深い電力コストに関して、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
電力コストは、家庭用と産業用の電気を生産するためのコストのことを指しますが、日本の電力コストは、2011年の東日本大震災の後、化石燃料への依存が高まった影響により、高騰しています。また、その影響により、電気料金も高騰しています。
下図に示されているように、震災前の価格と比べると、2013年の電気料金は、家庭用で約2割、産業用で約3割上昇していることがわかります。この高騰は、産業、特に中小・零細企業に、多大なる影響を与えていると同時に、私たちの生活にも影響を与えています。
図2 平成22年度~25年度間の電灯料(家庭用と産業用)の変化
出典:資源エネルギー庁 エネルギーミックス検討状況について
また、電気料金に関わる国民負担もやむなく増加させ、電力の料金を値上げしているにも係らず、国の電力会社10社合計の経常損益では、赤字が続いているのが現状です。


このような現状で政府は電力コストを抑制するという目標を掲げています。では、具体的にどのような対策を考えているのでしょうか?
ここで、先ほど説明した3E+Sの観点が重要になってきます。
日本の、省エネルギー(省エネ)と再エネの拡大によって原子力発電(原発)への依存を低減させる(安全性)方針を軸として、CO2の排出を抑制し(環境適合)、エネルギーの自給率を上げる(安定供給)という観点から見たうえで政府は、日本がとるべき対策は次の3点と考えています。
  • 可能な限りの原子力の低減
  • 再生可能エネルギーの拡大(最大限の導入)
  • 石炭の使用抑制、また、LNG(液化天然ガス)の活用
CO2/kWh(一キロワットで一時間使用したときに排出する二酸化炭素量)の値で比較すると、石炭は約0.82 kgのCO2を排出するのに対し、LNGは約0.40kgのCO2を排出するため、石炭を抑制しLNGを活用することはCO2の排出抑制に効果的です。
しかし、もうひとつのE、経済効率性、の観点から日本の基本方針を考えてみると次の3点が対策として見えると考えられています。
  • 可能な限りの原子力の低減
  • 再エネの抑制(最大限の導入)
  • 石炭の活用、LNGの抑制
新しいエネルギー源として期待されている再エネですが、その推進にもコストがかかり、更なる急激な拡大は、結果的に更なる国民の負担の増大につながる可能性があります。そのため、経済効率性の観点から見ると、最大限の導入をしつつも抑制が望ましいとされています。
また、円/Kwhという(一キロワット一時間使う私用した際にかかる料金)の値で比較すると、石炭は約3.9円/Kwhであるのに対し、LNGは約8.2円/Kwhかかります。そのため、国民・産業への負担を考えた際、石炭の活用とLNGの抑制が望ましいことになります。


つまり、日本政府は、3E+Sという観点から、省エネと再エネの拡大による原発への依存の低減という方針を達成するためには、上で述べた、安全性・環境適合・安定供給の観点から導き出される目標と、安全性・経済効率性の観点から導き出される目標の両方をうまくバランスさせる必要があるのです。
こういったバランスを考えて出された案が今回政府の提出したエネルギーミックス案なのです。政府の方針通りに物事が進めば、将来の日本の電気料金の国民負担は減少する ということです。
私は、経済の活性化のために、政府が電気料金の産業負担を減らすことには賛成です。しかし、国民負担に関しては、エネルギーは環境に負担をかけて生み出されるものなので、再エネの導入によって電気料金の国民負担が高くなることは、環境への負荷を料金に取り入れていたものであり、コストすべてを考えた電気料金の本来あるべき姿であると思います。また、電気料金が高くなることによって、国民の節電への意識も高まる可能性があると考えています。そのため、個人的には、今回政府のエネルギーミックス案において、国民負担を減少させるためという理由のために再生エネルギーの導入を抑えることには反対です。
エネルギーは私たちの生活に必要な不可欠なものです。今回政府の出したエネルギーミックス案は、日本の将来・私たちの未来に密接に関係しています。皆さんは、この案、また、政府の方針についてどう考えますか?この機会にぜひ、エネルギー、また、国の未来について考えてみてください。


(文責:萩原)


~参考資料~
日本経済新聞電子版『世界のCO2濃度が危険水域に 測定開始後初 -米海洋大気局』(2015年5月7日付)
経済産業省資源エネルギー庁 『エネルギーミックス検討状況について』(2015年3月24日付)
経済産業省資源エネルギー庁 『長期エネルギー需給見通し骨子(案)関連資料』(2015年4月28日) 
経済産業省資源エネルギー庁 『長期エネルギー需給見通し骨子(案)』(2015年4月28日)
経済産業省 『日本のエネルギー2014:政府の視座』
経済産業省資源エネルギー庁 『考えよう、エネルギーのこと。日本のエネルギー2014』(2014年11月発行)


2015年5月16日土曜日

政府目標案に隠された落とし穴——今こそ温暖化対策に向けた国民的議論


■ COP21に向け、政府が削減目標案を発表

 政府は先月末、国全体で取り組む温室効果ガスの削減目標について、新たな指針を公表しました。日本の排出量を2030年までに、13年比で26%削減、05年比では25.4%削減するとしています。原子力発電所の稼働や再生可能エネルギーの普及を中心に削減量を推計したようで、15年間で現在の排出量の4分の1を削減するという目標になっています。

 そもそもこの目標値は、11月末から開かれる国連の気候変動パリ会議(COP21)にて、世界規模の中期的な削減目標を決めるために各国が素案として提示するものです。すでに、EU2030年までに90年比40%減(05年比35%減)、米国は2025年までに05年比2628%減という目標を策定し提示しています。



土壇場で目標値かさ上げ、しかし問題は山積み

 日本の目標値設定の背景には、数値をこれら諸外国の目標値と遜色ないものにしたいという思惑があります。政府は当初、目標値を13年度比20%減と定める方向で調整していましたが、COP216月のサミットなどをにらみ、国際社会で批判を招かないよう数値を上乗せする方向で検討が進んだようです。削減量が上乗せされたことは好ましいことのように思われるかもしれませんが、ここには看過できない2つの落とし穴が隠されています。


それでも目標値が低すぎる

 この数値については「目標値として低すぎる」との見解が数多く出ています。気候変動に取り組むNGOのネットワーク・CAN-Japanは、「世界規模で必要とされている削減値を満たし」「他国との配分において衡平で」「日本の削減余地に見合った」削減割合を分析し、「2030年までに90年比40%50%の削減」が必要との結論を得ていますが、言うまでもなく今回の目標値はこの値には大幅に届いていません。

 また、12年には「2050年までに80%削減」という項目を盛り込んだ「第四次環境基本計画」が閣議決定されましたが、この政府自身の目標値からも後退していることになります(削減が直線的に行われると考えれば、2030年までに約35%の削減が必要)。



目標値設定のための議論が少ない

 しかし一番懸念すべきは、目標設定に際し、根拠となる部分について建設的な議論があまりなされなかった点でしょう。

 平行して議論されていた2030年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)は、再生可能エネルギーを2224%、原子力を2022%と示す案に決着しました。
(ベストミックスについて、詳しくは510日記事を参照)

 この配分に関しては、再生可能エネルギーの発展可能性を過小評価しているのでは、との批判ととともに、当然ながら原子力への依存度が高い点が問題視されています。2030年に原子力の割合を2割以上とするためには、40年が原則となっている原発の運転期間を60年に延長するか、原発の新増設しかありません。もちろん、今の世論が再稼働を簡単に容認するとは思えませんが、かといって再稼働ができないとなれば、電源を石油火力に頼らざるを得ず、温室効果ガスの削減が遅れてしまいます。

 いずれにせよ、今回の削減目標設定については、議論が拙速に行われた一方で、重大な問題がおざなりになってしまった印象を受けます。




今こそ議論と行動を!

 政府は2005年から「パブリックコメント制度(意見公募手続制度)」を導入しています。これは省令や法令を決める際に用いられる制度で、政府はこれらの命令等を定める際、原則として、あらかじめその案を公表した上で、国民から広く意見や情報を収集し、それらを十分に考慮しなければなりません(行政手続法第6章 第38条~第45条)。これは、私たちが問題意識を持ってきちんと意見を届ければ、国の方針を変えることだってできることを意味します。

 現在、資源エネルギー庁HP上には「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に関する意見箱」が設けられています。また温室効果ガスの排出削減目標についても今後、政府がパブリックコメントを実施するようです(詳細は未発表)。
 
 今こそ、私たち若者を中心とした、国民的な議論が強く求められています。
 上記パブリックコメントについては、詳細が発表され次第、本ブログ上でお知らせします。
 皆さんも一緒に、温暖化対策のあるべき姿について考えてみませんか。そしてぜひ、私たちの声を政府に届けて、よりよい日本の未来を作っていきましょう。




(文責:針谷)




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 CYJは創設以来,基幹事業のひとつとして「省庁への声明文提出」に力を入れてきました。
(過去の活動実績)
COP や気候サミット開催に合わせ,外務省,経産省,環境省に直接赴き提出
・提出の際に意見交換を実施
・若者向けのイベントを開催し、パブリックコメントを収集した上で提出

 今年度も、COPに向けて活動していきます。団体についての詳細に興味がある方は、HPFacebookページも合わせてご覧ください。




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<参考文献>
NPO法人気候ネットワーク 『あなたも政府に意見を出そう!問題だらけの「エネルギーミックス」と「温室効果ガス削減目標」』(201551日付)
日本経済新聞電子版 『電源構成、決め方に疑問 再生エネ増やす余地も』(2015420日付)
日本経済新聞電子版 『温暖化ガス、2030年までに26%減 政府が目標案』(2015430日付)
日本経済新聞電子版 『温暖化ガス削減目標、欧米にらみ最後に上積み 政府26%目標』(201551日付)
経済産業省 資源エネルギー庁HP 『長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に関する意見箱
ソーシャルイノベーションマガジン「オルタナ」HP 『環境NGOが温暖化目標を批判、「90年比1割減はありえない」』
北海道新聞HP 社説 将来の電源構成 民意を無視した原発回帰』(2015430日付)
WWF Japan HP 『憂慮すべき日本の温室効果ガス排出量削減目標
産経ニュース 『温室ガス26%減 高すぎる目標を危惧する』
e-Gov 『パブリックコメント制度(意見公募手続制度)について』
e-Gov 法令データ提供システム 『行政手続法』