2015年6月17日水曜日

「せっかくだし、パブコメしてみようかな」


 こんにちは! COP21 Advocacyチームの藤田と申します。私たち Advocacyチームでは、国内および国際的な気候変動政策について、政策意思決定者に向けたユースとしての意見発信を行うことを目的に活動しています。と、立派なことを述べつつも、実を言えば私自身は最近まで、「そもそもAdvocacyってどういう意味?」という程度の知識レベルでした(すみません)。まだチームとしての動きは始まったばかりですが、これから楽しみながらメンバーと共に色々と勉強していけたらと考えております。


INDCって何だ?? バブコメって何だ??

 さて、つい先日の3日(水)に、環境省より、2020年以降の温室効果ガス削減目標を含む日本のINDC(政府原案)に対する意見の募集(パブリックコメント;通称パブコメ)が始まりました(http://www.env.go.jp/press/101079.html)。現在、世界各国はCOP21(国連気候変動パリ会議)での世界全体による温室効果ガスの大幅削減へ向けた国際合意という大きな目標に先立ち、国連に対して、各国がそれぞれ決めた温室効果ガス削減の約束草案(Intended Nationally Determined Contributions; 通称INDC)の事前提出が求められています。現在では、米国、EUを始め、38の国・地域が既に提出を済ませている状況です(http://www.can-japan.org/activities/1761)。日本は他の国に遅れをとりつつも、今回の政府原案からパブコメを経て、一気に7月下旬までにはINDC提出へ向かおうとしています。つまり、今は国内でも最も関心が集まりつつある時期です。そこで今回の投稿では、これまでの記事よりも少しハードルを下げて、「そもそもINDCって何だろう? パブコメって何だろう?」という方にでも、興味を持って読んでもらえるような内容にしたいと思います。


・そもそもなぜINDCが必要なのか?

 そもそも、なぜ各国はINDCというものを先に提出しなくてはならないのでしょうか? それは、端的に言えばCOP21おいて、世界全体が関わる温室効果ガス削減に向けた新たな枠組み作りを成功させるためです。近年、地球全体において明らかな気温の上昇が観測されており、2013年に発表されたIPCC AR51作業部会では、「気候システムの温暖化に疑う余地はない」という記述がされています。まず「疑うこと」を大切にする科学者集団が、これほど強いメッセージを残したということは、現在の気候変動問題についての喫緊さを表わしており、私たちはこの事実を重く受け止める必要があると考えられます。その近年における温暖化に最も寄与している温室効果ガスを世界全体で一刻も早く削減していくために、今回のCOP21で京都議定書の第二約束期間が終わる2020年以降における世界全体による新たな枠組みを作ろう!という流れなのです。INDCがあることで、各国はCOP21に先立って自国の目標を他国に明示することになります。それにより、ある種の不透明感を回避することができ、その後の交渉準備を容易化し、共通目標の設定をよりスムーズにすることにつながるのです。例えば、既にINDCの提出を済ませた米国、EUはそれぞれ、「2025年までに05年比−26%〜−28%減」、「2030年までに90年比−40%減」という削減目標を示しています。また、つい先日の78日にドイツのエルマウで開催されていた主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、世界全体により2010年比で2050年までに最大70%の排出削減を目指すことを宣言しており、いま確実に、世界中でCOP21の成功へ向けた機運が高まっています。


・日本のINDCの中身とは?

 一方、現在出されている日本のINDCにはどのような目標値が記載されているでしょうか? その中身を少しだけ見てみましょう(http://www.env.go.jp/press/files/jp/27284.pdf)。これによると、日本の目標値は、「2030年度に2013年度比で−26.0%(2005年度比で−25.4%)」であることが分かります。皆さまは、この数値を見てどのような感想を抱くでしょうか? 「−26.0%」という数値をそのまま見れば、EUの出した目標値には及ばないものの、米国の出した目標値とほとんど変わらないし、こんなものかなとも思う人もいるかと思います。ただ一方で、目標値を示す際の基準年が異なっているのも気になります。実はこれが少々くせ者なのです。
  実際のところ、現在ドイツのボンで行われている国連気候変動交渉会議(COP21前の準備会合のようなもの)において、日本の掲げた目標は国際社会、特に国際NGO団体などからは、厳しい評価を受けているようです(http://www.kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2015/06/Kiko_SB42_No1.pdf)。その理由は、そもそもの目標値の低さ、そしてその計算方法です。どういうことかと言いますと、日本の「2030年度に2013年度比で−26.0%(2005年度比で−25.4%)」という目標は、実は1990年比にするとたったの18%減(EUでは−40%削減)であり、これは「基準年をズラして目標を高く見せようしているだけで、実は他の国々が90年以来取り組んできた努力を無視しようとする動きではないか!?」、と一部では捉えられているのです(表1および2015510CYJブログ記事参照)。

表1:主要国のINDCの比較(米国は2005年比の数字を、EU1990年比の数字を削減目標として提出) 出典:環境省HP 2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会 約束草案関連資料(平成27430日分)』 


 ただ日本は、2011年に発生した福島第一原発事故に伴い、今現在は原子力発電所による発電を止めております。さらに、再生可能エネルギーの技術発展が未だ追いついていない現在において、早期からの再生可能エネルギー導入は電力コストの増加に繋がる面もあります。そのため、確かにCO2排出の問題はあるけれども、国内からの視点のみで考えれば、安価で安定供給も可能な石炭火力発電を維持・拡大することは決して悪くはない、よって削減目標もこの程度で十分ではないか?、という考え方も、その視点からすれば、それは一つの「正しい」意見なのかもしれません。その一方で、やはり気候変動という問題は、長期的に見た場合のリスクが非常に大きいために、世界全体による対策を後回しにすればするほど、いずれ各人が払わざるを得ないコストというのは今後さらに大きくなる可能性が高いと言えます。やはり人類が同じ地球でこれからも生きていく以上は、個人の視点、自国の視点のみならず、世界全体としての視点が、短期的視点のみならず、長期的視点が必然的に求められていきます。このように、どのような視点で問題を見ていくのかというのは、一人一人がこれから気候変動問題と向き合い、国内の動きについても意見形成していくために、とても重要な考え方であると思います。


・改めてパブコメって何だ??

 前置きが大変長くなりましたが、ここで今回の本題であるパブリックコメント(パブコメ)について少し詳しく見てみましょう。パブコメとは、政府が政策を実施していく上で定める様々な政令・省令について、これらの決定が政府内でなされる前に、あらかじめその案を公表し、広く国民からの意見・情報を募集する手続きのことです。システムとしては、国民から出た一つ一つの意見に対して、各担当省庁がそれを読み、見解を述べ、それがHP上にきちんと公表されるようになっております。
 例えば、最近、「食品、添加物等の規格基準の一部改正に関する意見の募集」というパブコメがありました(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495140561&Mode=2)。 この募集には、計7件の意見が集まっていました(リンク先の「別添」参照)。集まった意見らは、普段の生活に基づいたものから、専門的な見解まで、様々な角度からの意見があり、多くが率直に普段感じていることをパブコメという形で表明されている印象でした。意見者の個人情報も、もちろんしっかり守られており、HP上では匿名の形で意見の概要、理由のみが公表されているようです。今回、私ははじめて様々な実際のパブコメを閲覧したのですが、そもそもこれだけ多くの案件が公募にかけられていたのか!、ということに率直に驚きました。また、国民からの各意見に対する回答にも、各担当省庁がしっかりと丁寧に対応されている印象を持ちました。各意見の内容や文量もそれぞれが様々であり(中には、ほんの一言で賛成意見を表明するようなパターンもありました)、思っていたよりも敷居は高くないようです。これまで「パブコメ」という名前自体は知っていたものの、「政府に直接モノ申す!」とでもいうような、ハードルの高いネガティブな印象がどこかにあった私にとっては、今回の気付きはとても収穫だったと思います。


・さて、せっかくだしパブコメってみようかな?

 CYJとしましては、この機会に2020年以降の温室効果ガス削減目標を含む日本のINDCに対して、せっかくなのでパブコメを提出してみようと考えています。

 2020年以降の社会とは、私たち今の若者が中心となっていく社会です。今の科学をもっても予測し切れない不確実なリスクをはらんだ気候変動と、今後とも長く付き合わざるを得ない私たち今の若者は、ある種の「覚悟」と「責任」をどこかで決めなければなりません。そして、それがまさに今なのだと私は思います!これから社会全体として気候変動と適切に付き合いつつ、私たち一般市民が安全・安心して暮らしていくためには、専門家と双方向の対話のもとで、私たち市民が自ら主体となって政策形成の過程に参画することが、現実問題として求められているのです。
 そこで今回読者の皆様も、ぜひこの機会を利用して一緒にパブコメってみませんか? 提出方法は、指定された様式を用いて、郵送、ファックスによるやり方や、電子メールによる方法もあるようです(http://www.env.go.jp/press/101079.html)。普段、個人的にぼやっと考えていたり、感じていたりしていた日本の気候変動政策に対して自分の思う部分を、政府が読み、それに対してきちんと見解を示してくれて、場合によってはその後の政策の動きにも影響を与えるかもしれないという、これはまたとない機会だと思いますよ!
 また、読者の皆様の中には、ちょっと興味はあるけれども、自分でパブコメをするまではちょっと気が引ける、という方もいらっしゃるかと思います。そういった方は、是非ともこちらのCYJパブコメ(本ブログ記事のコメント欄(笑))にでも、どうか気軽に意見してみて下さい! 私たちCYJが皆様からの意見を拝見させて頂き、一つ一つ私たちなりの回答をさせて貰い、可能であればそれらの意見をまとめた上で、皆様の代わりとなってパブコメとして提出させて頂くことも検討しております(^^)
 
 CYJとしてのパブコメが完成しましたら、その際はまた本ブログでお知らせします!
 皆さま、どうぞこの機会に私たち若者・市民の意見を、パブコメとして日本政府に届けてみてはいかがでしょうか? 



文責:藤田 



参考文献

環境省HP 報道発表資料 『「日本の約束草案(政府原案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)』http://www.env.go.jp/press/101079.html
環境省HP 2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会 約束草案関連資料(平成27430日分)』 
在日フランス大使館HP 『気候交渉の新しい手段「気候変動対策への国の貢献」』
Climate Action Netwark Japan HP  『2020年以降の温暖化対策の国別目標案(約束草案)の提出状況・一覧』
国立環境研究所HP 『INDC(各国が自主的に決定する約束草案)とは?:温室効果ガス削減目標の設定に関する教訓を活かす』
・気候ネットワークニュースレター Kiko ADP2-6通信 ボン No.1
・電子政府の総合窓口 e-Gov[イーガブ] 『パブリックコメント制度(意見公募手続制度)について』